ID : 13826
公開日 : 2010年 1月21日
タイトル
シロアリ腸内共生系の高効率木質バイオマス糖化酵素を網羅的に解析
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新聞名
理化学研究所
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元URL.
http://www.riken.jp/r-world/research/results/2010/100120/
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元urltop:
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写真:
 
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-各種シロアリ腸内共生系に共通した酵素群特定とその特異な進化過程を解明-
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、各種のシロアリ腸内に生息する共生原生生物が共通して持つ特異的な「セルラーゼ※1」群遺伝子を網羅的に取得し、この遺伝子群による高効率なバイオマス糖化※2システムの実現には、シロアリ腸内微生物複合系※3(シロアリ腸内共生系)のバクテリアと共生原生生物間の遺伝子水平伝播※4が関係していることを明らかにしました。理研基幹研究所守屋バイオスフェア科学創成研究ユニットの守屋繁春ユニットリーダー、同工藤環境分子生物学研究室の戸高眠ジュニア・リサーチ・アソシエイト(現 株式会社豊田中央研究所)、井上徹志協力研究員(現 学校法人香川学園 宇部環境技術センター)、斎田佳奈子 研修生(現 熊本県産業技術センター)、大熊盛也副主任研究員(現 バイオリソースセンター微生物材料開発室長)、工藤俊章主任研究員(現 国立大学法人 長崎大学教授)、オーストラリア連邦科学産業研究機構のミカエル・レンツ(Michael Lenz)教授、米国ノースカロライナ州立大学のクリスティーヌ・ナレパ(Christine Nalepa)准教授らの研究グループによる成果です。シロアリは、亜熱帯から熱帯にかけて分布し、枯れた植物を食べてセルロースを糖類に分解する昆虫で、非常に効率の良い木質バイオマスの分解者です。今回、シロアリの腸内に生息し、独自の進化を遂げた共生原生生物が持つセルラーゼを、すべての下等シロアリ※5腸内共生系のメタトランスクリプトーム解析※6によって網羅的に取得し、詳細に解析しました。その結果、シロアリ腸内共生系には、糖質加水分解酵素ファミリー (GHF;Glycosyl hydrolase family) 5、GHF7と呼ぶ2つのセルラーゼが中心(コア酵素)として存在し、GHF 10、11、45などのセルラーゼが、コア酵素群に加えて多くのシロアリで保存されていることが分かりました。特に、コア酵素のうちGHF 5は、分子進化学的な解析の結果、バクテリアから水平伝播で共生原生生物へ移ったことが分かりました。つまり、シロアリの持つ驚くべき高効率のバイオマス糖化システムの確立には、シロアリ腸内の濃密な微生物複合系での遺伝子の生物間移動が重要でした。本研究で得た酵素遺伝子は、従来型の酵素の5~10倍もの活性があることも明らかであり、今後、食糧問題と拮抗(きっこう)しないセルロース系バイオマスの利用に当たって、シロアリの持つセルラーゼ群は重要なリソースとなることが期待できます。
現在、地球温暖化対策や持続可能な社会構築の必要性が叫ばれ、バイオマス利用に関する研究を加速させる機運が高まっています。バイオマス利用に関係する酵素群のうち、セルロース系バイオマスを糖化し、バイオ燃料やバイオプラスチックの製造原料に転換するセルラーゼは、第二次世界大戦中に発見された菌類(Trichoderma reesei)のセルラーゼが主に使用されています。このTrichoderma reeseiの持つセルラーゼは非常に優秀な酵素群ですが、セルロースを発酵の原料であるグルコースまで分解し糖化を進めるためには、ある種の酵素を別途大量に添加する必要があります。そのため、自然界の生物多様性の中から有用なリソースを新たに開発・利用して、糖化までのステップを単純化し、高効率化することが望まれています。シロアリは、温帯から亜熱帯にかけて分布し、森林生態系における植物枯死体、すなわちセルロース系バイオマスの主要な分解生物の1つで、菌類と同等かそれ以上の効率でセルロースを分解することが知られています。セルロース系バイオマスの分解は、シロアリ腸内に共生する共生原生生物(図1)が担っていることが分かっていましたが、これらの原生生物は培養が困難で、それらが保有する高度な糖化効率の基になっている酵素群の網羅的な解析は進んでいませんでした。研究手法と成果今回の研究では、理研をはじめとするわが国の研究コミュニティーが開発してきた複数の完全長cDNAライブラリー構築法※7を用いて、培養困難なシロアリ共生原生生物から、実際に発現している遺伝子を集めたライブラリーを構築し、その網羅的な解析を試みました。解析に当たっては、共生原生生物が生息するほぼすべてのシロアリの科と、その近縁の材食性ゴキブリを代表するキゴキブリを、オーストラリア・アメリカ合衆国・屋久島・西表島・秩父といったさまざまな場所から収集しました(図2)。次に、キゴキブリを含む各種シロアリの腸内共生系より構築した共生原生生物群cDNAライブラリーを用いて、高い効率で森林内の植物枯死体を分解・利用している共通のバイオマス糖化システムの同定と、その進化過程の解明を、メタトランスクリプトーム解析と分子進化学的な手法を用いて試みました。その結果、シロアリやキゴキブリの腸内共生系からは、例外なく糖質加水分解酵素ファミリー (GHF;Glycosyl hydrolase family) 5や7に属するセルラーゼ遺伝子が数多く発現していることや、GHF10、11、45に属するセルラーゼやキシラナーゼ※1も、多くの種の腸内共生系に共通して発現していることを発見しました(図3)。次に酵素のアミノ酸配列や分子系統樹上での位置から検討した結果、これらの遺伝子は、通常の菌類やバクテリアで多く見られるセルロースに結合するための構造(セルロースバインディングモチーフ)を欠く非常に単純な配列で、シロアリ腸内共生系が形成した後、ほかの生物のセルラーゼから分化し、独自の進化を遂げたものであることが明らかになりました。また、驚くべきことに、GHF 5に属するセルラーゼの遺伝子は、系統樹の樹型を網羅的に比較する分子進化学的手法を用いた解析の結果、バクテリアから共生原生生物のゲノム中に、酵素遺伝子が2回の独立した水平伝播によって、シロアリ腸内共生系にもたらされたことが分かりました。すなわち、シロアリ腸内の非常に濃密な微生物複合系では、遺伝子が異なる生物の間を伝播し、それがシロアリ共生原生生物群の持つ高効率のセルロース系バイオマス糖化を確立、生態系機能の進化に重要な役割を果たしていたという貴重な知見を得ました。今後の期待今回の研究では、セルラーゼにかかわる遺伝子の転移が、遺伝子の発現様式などが大きく異なっているバクテリアと共生原生生物間で起こっていることを明らかにすることができました。現在、これらの酵素遺伝子解析を進めています。このうち、GHF 7のエンドグルカナーゼ遺伝子についてはすでに解析を終了し、従来公表されてきたほかの菌類やバクテリアの酵素の反応速度の5~10倍にも達する反応速度を有する高性能酵素であることが分かりました(Todaka et al. Appl Biochem Biotechnol,2009)。今後、世界的に希求されている高性能のセルロース系バイオマス糖化システムの確立を目指すとともに、本研究で培ったメタトランスクリプトーム解析法を発展させて、さらに新しい関連因子群の探索と解析・その実用化が期待できます。(問い合わせ先)独立行政法人理化学研究所