ID : 15060
公開日 : 2010年 2月19日
タイトル
森と生きる: はぐくむ 土佐の林家・筒井順一郎さん 
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新聞名
毎日新聞
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元URL.
http://mainichi.jp/area/kochi/news/20100218ddlk39040619000c.html
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元urltop:
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写真:
 
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「すべての生き物の親」 樹齢約40年、20メートルにも及ぶ杉がそびえ立つ。そのうちの1本に目をつけた。チェーンソーで切れ目を入れ、プラスチック製のくさびを2本打ち込む。パキッ、パキッ--。杉は音をたててゆっくり傾き、地面に倒れた。太陽光が差し、凛(りん)とした空気が漂う森。間伐は厳かな行為に思えた。
 「森はこの世に生きた証し。じいさん、おやじ、ずっと森には歴史が刻まれちゅうのよ」。土佐町の林家、筒井順一郎さん(63)は一人で約30ヘクタールの山を守っている。木材搬出用の作業道はクモの巣のよう。花を植えるプランターなどの木工品も作る。自ら育て、切り、収入を得て、また植える。森林行政関係者が「筒井さんが見本です」と口をそろえる張本人だ。
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 中学卒業後、旧窪川町の農業訓練学校で2年間学んだ。地元に戻ると山に入り、父親と苗木を植えた。その後、約10年間働いた木材市場でたくさんの見本と出合う。「1ヘクタール当たりの本数はどればよ?」などと聞き、間伐の度合いなどを学んだ。吉野や飛弾など銘木の産地を訪ね歩き、心に決めた。「太い木、ええ木を残そう」
 子ども4人を育てた筒井さんにとって、木は子や孫と一緒だ。植えて15年以上がたち、間伐期に入る森に入った。太さや曲がり具合など一本ずつ姿がまったく異なり、切るか残すかを見極める。「子ども一人ひとりの人格を見て、なんて言うけんど」。後に銘木に育つ“子ども”は「残して」と自己主張するといい、日々、木の声に耳を傾ける。
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 「最後は家に使ってほしいねぇ」。育てる人の願いというが、戸建てはマンションに代わり、建材の需要は減っている。木材の価格は、約20年前の3分の1にまで落ちた。
 それでも木材は生活の糧だ。建材だけでなく、合板やチップ用でも必ず収入になる。「安いからといって森は放置できない。この土地は、子孫から借りてるものと思ってますから」。手入れすれば森は水を蓄え、土砂崩れを防ぐ。だから、人は森がないと生きていけない、と信じている。
 目標にする大木がある。「おやじが結婚した時に植えた木です」。植えて70年近くたった杉が、悠然とした姿で見下ろしていた。「立ち木を見ると書いて親。森はすべての生き物の親なんですよ」。筒井さんはそう言って、父親の木にそっと触れた。
 筒井さんから届いた年賀状には、こんな言葉がつづられていた。
 「大径木は一夜にしてならず。自分の仕事を信じてやるだけです」
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 人類は森から生まれた、とも言われる。地球温暖化対策で注目される森林だが、全国的に荒廃が進む。森林面積率84%と全国一を誇る高知。森と共に生きる人たちを訪ね、思いを聞いた。