ID : 4185
公開日 : 2007年 6月27日
タイトル
ブラジルの環境保護の取組としては、世界の熱帯雨林の 3分の1
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新聞名
IBTimes
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元URL.
http://jp.ibtimes.com/article/column/070626/9043.html
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元urltop:
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写真:
 
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出展:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.139/国際通貨研究所 経済調査部 上席研究員 松井 謙一郎 2007年6月19日付」より

 ブラジルのエタノ-ルがここ数年来ブ-ムとなっている。今年6月にはブラジルで世界初のエタノ-ルサミットが開催された。世界的に代替燃料としてのエタノ-ルへの関心が高まる一方、エタノ-ル利用促進に際しての課題・リスク要因も浮き彫りになってきている。
 日本でもエタノ-ルとガソリンの混合燃料の利用を促すため政府が総合的な対策に着手したが、一方で今後日本がブラジルからのエタノ-ル輸入を継続的に進めていくための供給量・価格の安定性の確保が重要な課題となっている。サトウキビは農産物であるため、干ばつなどの自然災害による生産減少のリスクがある。ブラジル政府はサトウキビの増産・精製所の増設・輸送インフラの整備等で今後の供給増加に対応する予定だが、政府が計画している精製所の工場新設や輸送インフラ効果の投資効果が出るには数年単位の時間がかかるため、今後数年間の供給増に対応できるか不安視する見方もある。
 一方で、砂糖の価格次第でエタノ-ル生産に向けられるサトウキビが減少するリスクもある。ブラジルの場合、工場で砂糖とエタノ-ルの両方が生産され、それぞれの生産計画は国内外の市場動向などを基に各工場で決められている。従来はサトウキビから砂糖とエタノ-ルの生産に振り向けられる割合はほぼ同一で推移してきた。今後の砂糖価格の水準によっては、このバランスが崩れる可能性もある。
【より複雑な米国のエタノール事情】 ブラジルと並ぶエタノ-ル生産大国である米国の事情はより複雑である。ブッシュ政権のエネルギー戦略において石油依存脱却の一環としてのエタノ-ルの利用促進政策が打ち出され、ガソリン消費を削減する狙いで代替燃料のエタノ-ルが奨励されているが、この影響で原料であるトウモロコシ価格が急騰した。米国ではブラジルと異なり、エタノ-ルは主としてトウモロコシから生産されているからだ。米国ではエタノ-ル生産が2000年頃から急速に増えて、2005年にはブラジルを上回る世界最大のエタノ-ル生産国となったが、米国内にはエタノ-ル利用の効果に対する懐疑的な見方も依然として強い。その理由としては、(1)従来の飼料や食料の使用のための穀物供給を減らさずにエタノール用トウモロコシの増産には十分な農地の確保が困難、(2)エタノ-ル生産に振り向けるためのトウモロコシへの需要増加のためにトウモロコシ価格が高騰、(3)全米のガソリンスタンドでエタノール混合燃料を補給・供給できる場所が極めて限られている、等である。
 隣国のメキシコでは伝統的な主食であるトルティ-ヤはトウモロコシを原料としている。ところが、トウモロコシの価格高騰の影響でトルティ-ヤの価格高騰が起き、国内各地で抗議デモが起きる等、社会問題になった。エタノ-ル、砂糖、トウモロコシなど連鎖的な一次産品価格の高騰の背景には、投機資金の流入も大きく影響している。このように、エタノ-ルの利用促進は単なる代替エネルギ-の利用の問題に留まらず、世界規模で複次的な影響を及ぼしている。
【ブラジルの環境対策とエタノール】 今やブラジルの戦略産業になったエタノ-ル産業であるが、ここに至るまでには70年代の石油危機時に代替エネルギーの必要性が痛感されたことを起点にその後の30年以上にわたる取組みの歴史がある。勿論、エタノ-ル利用促進は環境問題への取組みの一環としても位置付けられている。ブラジルの環境保護の取組としては、世界の熱帯雨林の3分の1 を占めるアマゾンの森林保護が個別の事例として有名である。ブラジルでは植民以降砂糖、金、コーヒーなど幾多の経済サイクルを経験したが、その度ごとに広大な森林が失われた。1990年代に入ってブラジルは開発政策を自由化・開放政策へと大きく転換させ、大豆・木材等の農林産物輸出を飛躍的に増加させて経済成長に貢献した一方で、アマゾンの森林破壊を更に促進する要因となった。現在でもアマゾンでは東京都の10倍の面積の森林が毎年消失していると言われる。政府は1990年代に衛星等のハイテク機器を導入して世界最大の環境保護システムを構築し、宇宙から熱帯雨林を監視・環境犯罪の取締の取り組みを日本の技術協力も得ながら行っている。しかし、国土が広大なために違法伐採や違法焼畑の取り締まりは困難を極めているのが実情である。こうした状況に対して、ブラジルでは、世界的に見ても珍しい環境犯罪法(1998年に制定)が罰則のある刑法として制定されている。1992年の地球環境サミットが開かれたのはブラジルのリオデジャネイロであり、また京都議定書の1つの枠組みであるCDM(Clean Development Mechanism)のアイディアもブラジルが提供したとされており、ブラジルは環境問題への取り組みを主導してきている強い自負があるようだ。
 しかし、現在の京都議定書の枠組みではブラジルは途上国であるため、先進国が負っているような二酸化炭素の削減義務を負っていない。最近は中国・インドといった途上国の中の大国も先進国と同様に二酸化炭素の削減義務を負う事で地球環境問題に対しても大国としての責任を負うべきであるという意見が強まっている。今のところ、ブラジルのポスト京都議定書の枠組みに対する取組の方向性が明確に見えてこないが、ブラジルが環境問題への取組みを主導してきた自負があるのならば二酸化炭素の削減義務を自らに課す積極的な姿勢を見せるべきだろう。また、前半で述べたようにエタノ-ルの利用促進が進むにつれて、エタノ-ルの利用促進によるプラスの側面だけでなく、他の分野に及ぼすマイナスの影響も考慮しつつ対応する必要が明らかになってきている。エタノ-ル大国ブラジルが、地球環境問題の取組において、積極的な役割を果たしていくかどうか注目される。