ID : 4498
公開日 : 2007年 8月21日
タイトル
名嘉睦稔さんの言葉に触れて
.
新聞名
オーマイニュース
.
元URL.
http://www.ohmynews.co.jp/news/20070807/13873
.
元urltop:
.
写真:
 
.
クロトンとは和名で「ヘンヨウボク(変葉木)」と言い、極彩色に葉の色が変化していく木のこと。原産地はマレー半島やオーストラリアにかけての熱帯。沖縄では街路樹として植えられているポピュラーな木である。
 クロトンは、さまざまな極彩色の葉が同じ株に同居することで、すべて違う柄に見える。そんなクロトンに睦稔さんが見いだしたのは、みんながバラバラで、一緒にいるのがいいということ、「多様性の許容」ということらしい。
 * * *

名嘉睦稔さん(提供:名嘉睦稔オフィシャルサイト「BOKUNEN'S WORLD」) 名嘉睦稔さんはダイナミックな版画が有名な、沖縄県伊是名島出身のアーティストだ。映画『地球交響曲(ガイアシンフォニー)第4番』(龍村仁監督作品)に出演したり、本の挿絵で名前が出ていたり、またぼくが好きな作家のエッセーでたびたび名前を見かけていて、どんな人なんだろうと興味を持っていた。
 その名嘉睦稔さんのトークライブが、東京・千代田区の毎日ホールで8月2日から4日まで開催された。彼の姿を直接見る機会も少なく、彼の言葉を直接聞いてみたくもあり、行ってみた。
 睦稔さんは今では版画家として有名だが、もともとは出版社にいて文章を書いたり、写真を撮ったり、編集をしたりと、ひとりで何でもやっていたらしい。その中でも絵を描くことが好きで、とりわけ挿絵が好き。クライアントの要望に応じて、さまざまな画風で挿絵を描くことが楽しくて仕方がなかったようだ。
 あるとき、版画で挿絵を描いてみないかという話になった。図書館で棟方志功の版画を見て、大変な衝撃を受けた。そして彫刻刀で初めて板を削ったときに、削った部分から光がほとばしるのを感じた。そのときに、「これは一生続けていくのだろう」と版画に対して、やるべきことに遭遇したという強い直感を得て、その直感をしばらく封印しようと、あえて約3年間、彫刻刀に一切手を触れないでいたと言う。
 睦稔さんが版画を描くときに、心の中に初めから絵は見えているらしい。そしてその絵は常に動いている。下絵として書く線は、ほんの「目印」みたいなもので、それは、常に動き続ける絵を、ピンでその場に留めておくようなことであるらしい。
 そういうとき、絵を見ているのは目ではなく心で見ているのだ、と睦稔さんは言う。
 版画を書いているときに気を付けるのは、「自分を疑わないこと」。自分を疑い始めると何もできなくなる。自分を楽しもう、信じ切ろうという気持ちこそがものを作る原動力になるのだ。
だからといって深刻になる必要もない。なにごとも重く考えないことが大事らしいのだ。「いい加減」がいいと睦稔さんは穏やかに笑う。
 睦稔さんのエピソードとして笑ってしまったのが、何でも食べる睦稔さんが意を決して食べたものがひとつだけある。それは息子が初めてした「うんち」だった。息子の初めてのうんちを食べてみようという発想は、睦稔さんの人柄とか、作風とかと違和感なく、ほほ笑ましいエピソードとして感じられるのが不思議であった。息子のうんちは味がしなかったらしい。これは調味料を入れないとムリだと思った、と語り、会場内からどっと笑いが起きた。
 子どものころから山にこもって、いろいろな草花を口にしてきた睦稔さんは、それが「食べられるものかどうか」を瞬時に判断できる感覚が身についているらしい。その感覚によると、うんちは「これは食べるものではないな」と感覚の声が告げたのだった。
 感覚の声に耳を澄ませて自由に生きる??。睦稔さんの話を聞いていると、そのことの大切さがよく分かってくる。また、睦稔さんは、人と比べると自分が駄目になると思っていて、どの会派などにも属していないのは、審査されるのが嫌だかららしい。比べられると、人からの評価を気にして弱くなってしまう。また、でき上がった作品に対して「こう見てください」と解釈することもしない。それはその絵を規定してしまうことになる。それはつまらないことだと睦稔さんは言う。
 沖縄の森は日が暮れると真っ暗になり、辺りには得も言われぬ気配、霊気とも言うべきものがあふれているらしい。
 動物は植物に支えられている。動物が吐き出した二酸化炭素を植物が酸素に交換してくれる。それは地球誕生からの決まりごと。沖縄には、台風から家を守るために集落には防風林があって、かつては地域全体が森に囲まれていた。防風林にはところどころに海に出る穴があり、そこから出るときに人は海の神様に祈った。そして海から林の中に戻るときには、今度は山の神さまに祈った。浜辺は海と山の境目の場所だ。
 コンクリートが開発されて、道がコンクリートで蓋(ふた)をされ、建物を台風から守り、室内はエアコンでどんどん冷やすような建物が沖縄にたくさん建つようになった。かつて沖縄にたくさんあった林が、どんどん少なくなってしまった。
 睦稔さんは言う。「人は風土に規定される」。風土を無視して、人が幸せになる未来は決して訪れない。感覚が無視される社会を子どもたちの世代に残したくない。「身体化する文化」を作りたい。「木を大事にする教育」をしていきたい。それはいろいろな場所、海や山に行って気持ちを整える体験をし、植物が私たちを生かしていることを知るような文化であり教育なのだろう。
 睦稔さんのどこか遠くを眺める穏やかなまなざしは、何を見ているのだろうか。睦稔さんの感覚を通して見えている、そこにある未来は、幸福なものなのだろうか。
 睦稔さんが沖縄のことわざを解説してくれた。睦稔さんのシャツのクロトン柄を見ながら、僕たちはもっと自由であっていい。ひとりひとりが多様性を取り戻す時代がきているのではないのか、そんなふうに思った。