ID : 4784
公開日 : 2007年 9月22日
タイトル
新首相にも期待したい環境の視点
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新聞名
日本経済新聞
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元URL.
http://eco.nikkei.co.jp/column/article.aspx?id=20070921c1000c1
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元urltop:
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写真:
 
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地球温暖化への取り組みを政策の重点課題に掲げた安倍晋三首相の突然の辞任表明。国民は次期首相に対して大きな期待を抱くことのできる要素を見出せずにいる。まずは「信頼の回復」に主眼を置いて、過去の目に余る不祥事(年金問題や政治とカネの問題など」に対する対処策を徹底するとともに、開催まで1年を切った洞爺湖サミットに全力で臨んでいただきたい。

■「緑のオーナー制度」問題に見る不祥事の構造

6月のドイツ・ハイリゲンダムサミットに出席した安倍首相(左端)
 不祥事のなかでも、一般にはそれほど知られていないが、我々の業界で大問題になっているのが、林野庁が国の森林を守るシステムとして始めた「緑のオーナー制度」(分収育林)だ。杉やヒノキなどの国有林育成に対して一口50万円(25万円の場合もある)を国民から集め、出資額に応じて伐採の収益金を配分するというシステムだが、現在およそ90%が元本割れとなっていることが明らかになった。
 輸入木材の増加に伴い国産材の価格が想定以上に下落してしまったことが原因だが、公募当初に十分なリスクを説明していなかったとして問題になっている。これは一般企業ならば「詐欺罪」で会社閉鎖に追い込まれそうなぐらいの極めて重大な問題である。国民参加型の森林保全を目指した仕組みが官によるずさんな運用のために大きく信頼を失ってしまった。年金問題の不祥事の構図と重なって見えてしまうのは私だけだろうか。

■資源枯渇をにらんだ経済政策を
 信頼回復には「日本の未来への展望」が欠かせない。環境の視点から、とりわけ今後明確にすべき3つの分野「経済」「環境」「教育」の展望について提案したい。
 まず「経済」分野における展望不足であるが、例えばお隣の韓国ではサムスン電子という会社が経済状況の厳しいなか、半導体を中心に莫大な投資を続けてきた。明確な方針による集中投資の結果、日本の電機メーカーは半導体分野で完全に後塵を拝してしまった。

太陽光発電パネルをのせた住宅
 IT分野でのさらなる開発は当然必要だが、発想を変えて、その応用も考えてみてはどうだろう。例えば液晶パネルは「電気を光に」変える性能を持つが、逆に「光から電気へ」も変え得るわけで、その性能を本格的に研究すれば、環境に良い有能な太陽電池が開発できるかもしれない。
 また世界的な原油高や資源不足を考えれば、国内の農林業の土台を強固にすることも重要であろう。木材に関していえば、木材はプラスチックと同じ炭化水素でできている。原理的にはプラスチックで作ることのできるものはすべて木でも作ることができる。木の特性を生かして、40年先にはなくなるとも言われる石油の代替材として木材の有効利用の開発に力を入れていかなくてはならない。

■環境立国に向け自給率向上を
 次に「環境」分野に対する展望不足である。環境問題に本格的に言及している首相候補がいないのは残念だ。世界的に見ても、日本は世界一の「環境立国」になる可能性があると私は考えている(詳しくは拙著『心に木を育てよう-緑の環境立国宣言-』参照)。「2050年までにCO2を50%削減」というぼんやりとしたイメージだけではなく、具体的なシナリオを提示すべきである。

総裁選に向けた論戦で環境が語られることは少ない[共同]
 日本の環境にとって重要なのは、第1次産業の復興と地域の活性化だと考えている。現在、日本の木材自給率は約20%しかないが、森林は戦後すぐの時点に比べ4倍以上の蓄積量がある。今後、木材の有効利用を考えて木材自給率が50%以上になるような政策をとることは不可能ではない。
 自給率を高めれば、京都議定書における温室効果ガス排出量マイナス6%の数値目標のうち、約3.9%を森林による吸収で達成できるとされている。断固として取り組むべきである。
 40%を割り込んだ食料自給率に関しても、フードマイレージを減らす観点から現在の休耕田を最大限に活用し、小麦や野菜等を作り直し、牧畜の餌の自給率を増やし、採算の見合うシステムを構築していく。また、山に広葉樹を植えミネラルを多く含んだ水を増やせば、沿岸漁業であるイワシ、ニシン、サバ、さらにカキ、アワビ、タイ、ヒラメの養殖も活性化し、魚にも人間にも良い循環が生まれる。さらに日本の世界に誇る最大資源は「水」である、という意識を改めて持ち、信頼ある森林保護政策を進めて世界の環境立国としてリーダーシップを発揮していかなければいけない。

■大学にも環境プログラムを導入
 最後に「教育」分野に対する展望不足である。上記の環境や経済分野の複雑な問題を解決できる人材を育成すべく、日本の将来を担う青少年の育成のために、根本から教育を変えていく必要がある。
 過去にあった○×形式の受験教育ではなく、「問題克服型の人材育成教育」を目指すべきである。そのためには大学改革は重要だ。入学そのものがゴールとなっているような入試の現状を改めるとともに、座学重視の教育から、地域の美化運動や植林など身体を使った教育をカリキュラムに入れてもいいのではないだろうか。